【PRRT法の概要】

(1) 「ソマトスタチン(SST)」という物質を特異的に取り込むタンパク質(ソマトスタチン受容体)を持つ腫瘍に、β線を出す放射性元素を SSTに似た物質(類似体)に結合させます。バーゼル大学では DOTATOC(略称) という物質に放射性 90Y(イットリウム)または 177Lu(ルテチウム)を結合したものを使います。ソマトスタチン受容体とソマトスタチン(類似体)は「鍵と鍵穴」の関係で、強く結合します。
 治療薬であるサンドスタチンも同じ原理で結合し、効果を発揮します。

(2) β線を出す物質を体内に取り込む方法の利点: β線の体内での到達距離は数センチメートルで、治療後外部の人が被爆する心配はありません。90Y- DOTATOCが集積した周辺の組織だけが放射線の影響を受けます。

(3) β線は外部で測定できないので、PRRTでは治療薬が集積したかどうかを確認するために、γ線を出すインジウム(111In)を、同じDOTATOCに結合させ、同時に投与します。

 この治療で使う二つの放射性物質の半減期はおよそ60時間(3日弱)。入院期間はこの半減期を目安に、投与後3日となっています。 
90Yは約 4,000 MBq(メガベクレル)、177Lu はイットリウムの約2倍投与します。111Inはその 約 1/40 の 111 MBq です。
 イットリウムから出るβ線のエネルギーはルテチウムより大きく、到達距離もイットリウムは遠距離まで(12 mm)、ルテチウムは近距離(2 mm)に到達します。現在では両者の特徴を生かして、2回の治療の内1回をルテチウム、もう1回をイットリウムで行っているようで、患者の様子を見ながらこの二種類を使い分けているようです。
 
(4) バーゼル大学での治療費用は入院費まで含めて、一回おおよそ90万円です。投与は二回行いますので治療費はこの2倍です。(急激な円高で日本人患者には負担増)

(5) 90Y DOTATOCを使う治療には、マイクロビーズを患部近くに埋め込む方式もあります。これをSIRT(Selective Internal Radiotherapy)と言います。日本でもおなじみのTACEの手法を応用したものです。こちらも早く認可していただきたい治療法です。

【注】 サンドスタチンLAR で治療中の方は、最後のサンドスタチンLAR投与後4週間(安全率を考えると6週間)たたないと、オクトレオスキャン検査およびPRRT治療を受けることができません。
    (サンドスタチン、DOTATOCがソマトスタチン受容体に結合するメカニズムは同じため、お互いに競合するからです)
  

         
    ・PRRTおよびオクトレオスキャンの原理                               【注】の参考図: サンドスタチンLAR (筋肉注射)投与後の血中濃度変化


111Inを使うオクトレオスキャン、68Ga-PET/CT 検査法の概要】 
 ★この二つの方法はPRRTの治療に効果があったかどうか、またPRRT有効かどうかを判断するのに必用です。
 ★PRRT治療が有効かどうかは、腫瘍にソマトスタチン受容体(SSR)があるかどうかでも大まかな判断が可能で、SSRがある程度あれば、バーゼル大学病院では受け入れてくれます。 

      
 

 神経内分泌腫瘍(NET)を特徴付ける物質に「ソマトスタチン受容体」があります。放射性同位元素を用いた検査法には現在二つの方法が使われています。一つは上記の 111In をソマトスタチン類似体に結合させ、体内で腫瘍部分に集積した 111In の位置をCT画像化する方法(X線CTと区別してSPECT-CTと略称)、これは「オクトレオスキャン」と呼ばれています。現在使われているオクトレオスキャン法はオランダの製薬会社、加速器を使って作成した111In 結合ソマトスタチン類似体(111In-DOTATOC)を空路輸入し、直ちに患者に投与し画像化します。111In の半減期はおよそ60時間です。
 通常のX線を使う CTは体外から放射する細いX線を検出、オクトレオスキャンでは体内で発生するγ線を検出する(SPECT/CT)ので、SPECT/CTの画像はXX線CTより劣ります。

 一方、通常のPETではフッ素18(18F)をブドウ糖に結合させた診断薬(FDG)を使います。これはブドウ糖がガン組織に集積する性質を使っています。18Fの半減期は数時間と短いために、病院内に加速器を備え、投与直前に18Fを作って使用します。
  NETの検診では68Ga をDOTATOCに結合したものを使います。68Gaも半減期が短く、病院内で使用直前に作成して患者に投与します。   

 18F および 68Gaは崩壊するときに陽電子(ポジトロン)を放出します。この陽電子は周りに沢山ある陰電子(通常の電子)と結合して、強いγ線に変わります。したがってオクトレオスキャンも68Ga-PETも検出するのは同じγ線で、γ線を検出する装置をシンチレータと言い、X線とは検出器が異なりますが、画像化の原理は同じです。

 68Ga-PETは放射能の半減期が短く、診断に必用な時間は半日程度で済みますので、患者や医師への負担が少ないので、欧米では68Ga-PETによるNETの診断が主流になりつつあるようです。なた日本の病院ではオクトレオスキャンや68Ga-PET診断を行う施設・装置は主要な病院では完備していますので、認可されれば直ぐにでも実施可能です。